出国

9/20(日)より27(日)まで、5泊8日のフランス一人旅に行った。

僕にとって初めての海外旅行であった。
初の海外旅行が、一人で、かつアジアではなくヨーロッパ、しかも英語圏ではない国だということは、周りの方々から「本当に大丈夫か?」と心配の声を頂くことにもなった。僕自身も、不安が全く無いというわけではなかったが、事前にきちんと下調べをし、危険な所へ足を踏み入れなければ、きっと大丈夫だろう、という思いがあった。
なぜフランスを選んだのだろうか。理由はいくつかあって、しょうもなくてとても人には言えないものもある。例えば、僕の同期に非常に海外かぶれの者がいて、英語に比較的堪能、最近某アジア人と国際結婚をした。僕はこの者をあまり気に入っていない。仮に日本に近いアジア圏内に初めて海外旅行に行ったとなれば、彼はすぐに僕に接触してきて、君もついにアジアに行ってみたか、と先輩風を吹かせてくるに違いなかった。英語圏の国に行っても同様である。僕は、そういった彼の想定される上から目線の態度が嫌だった。そうして、アジアではなく英語圏でもない国に行くことを決心した。
他にも理由はある。僕は5月から7月頃にかけて、沢木耕太郎の「深夜特急」なる紀行小説を読んでいた。旅の終局を描く第六巻で、筆者はイタリアやフランスを通過しており、その情景に憧れた。また、4月から6月末まで放映されていた「天皇の料理番」というドラマで、佐藤健演じる秋山篤蔵が単身フランスへ修行に出るシーンがあった。秋山篤蔵をはじめとした当時の日本人にとって、フランスは憧憬の真っ只中にある先進国であって、現代にあっても彼らの文化は朽ちることはない。ともかく、「よくわからんが、なんかすごそうだ」という思い一つで、フランスに行くことが決まった。

4日に東京都庁で申請したパスポートは、翌週12日に完成。航空機、ホテル、先方で乗る予定の高速鉄道(いわゆるTGV)の手配は、インターネットを使って全て自分で行った。TGVの予約などは、フランス国鉄(SNCF)のサイト上で行うことになり、全てフランス語表記なのでちんぷんかんぷんだったが、予約方法を解説した有志のページがあって非常に助かった。旅行代理店のサイトからも予約が可能で、当然日本語表記なのでスムーズではあるが、手数料として正規料金の数10%が上乗せされる。SNCFで50ユーロで取れる便が、代理店を通すと8、90ユーロだったりする。とてもバカバカしくなり、何が何でもSNCFで予約することにした。

出発前日の19日(土)は準備に追われた。バックパックに着替えや生理用品を詰め込んだ。旅は合わせて8日間の予定だが、当然8日分の着替えを持っていくわけにはいかず、携帯用の洗剤を持っていき、あちらのホテルで自分の手で適宜洗うことにした。また、日本国内を幾度か旅した経験上、「満足なドライヤーが無い」ことが多々あったので、携帯ドライヤーと、電化製品を使うための変圧器やタコ足を持っていくことにした。しかし、これらの洗剤が結局一度も活躍しなかったり、タコ足が原因で後々肝を冷やすことになろうとは、この時は全く想定していなかった‥。

出発当日、成田空港に14時半に着いた。事前に空港内で円とユーロを両替した。5万円をユーロに換えてもらうことにし、1ユーロ141.44円だったので350ユーロ程度になった。後々わかるが、物価の高いフランスで生活するには、5日間で350ユーロでは足りなかった。
利用するのは、数ある航空会社の中でもお値打ち価格、かつ比較的安全・安心だと評判のタイ国際航空である。離陸まで、搭乗手続、出国審査、手荷物検査がある。最初の搭乗手続に長蛇の列ができていて、これを済ませるのに1時間以上掛かってしまった。次ぐ出国審査にもひたすら並ぶことになり、元々出発時刻の3時間近く前に空港へ着いていたにもかかわらず、全ての手続きに2時間以上を要して思いの外ギリギリであった。初めての出国ということもあって、用心して早めに来ていたが、正解であった。

飛行機には17時半頃に搭乗。タイ国際航空、一体どれほど古い機体なのかと思っていたが、驚くほど新しく清潔なエアバスだった。座席の前にはタッチパネル画面が装備され、映画や音楽を楽しむことができる。18時に離陸し、姿勢が安定した頃から飲み物が出されはじめ、CAから何を飲むか英語で尋ねられた。僕が恐る恐る「beer,please」と言うと、タイのシンハービールが出てきた。全て飲み干して、また回ってきたCAに「Japanese beer」とお願いすると、今度はアサヒスーパードライが出てきた。国際線ではビール飲み放題だと同僚に聞いていたが、これはいい。と、調子に乗っていると、すぐに小便がしたくなり、隣の男性に通路を空けてもらわねばならず申し訳なかった。
1時間ほどして早速夕飯が運ばれてきた。乗客に日本人が多いからだろうか、日本食を意識した構成になっていて、ライス、卵焼き、鯖を焼いたもの、ヒジキなどが出た。某国の航空会社が出す機内食などは、廃油が使われているのではないかと散々な言われようであったが、この航空会社の機内食は心配するまでもなくとても美味しかった。
フランスへは、一度タイでトランジットして向かうことになる。タイには22時半に降り立つ予定だが、タイと日本は2時間の時差があるので日本時間では0時半だ。6時間半ほど飛行機に乗ったことになる。着陸1時間前にアイスクリームが振る舞われ、22時半にスワンナプーム空港へ着陸した。

スワンナプーム空港では、あちこちに英語表記の案内が掲げられている。「Transfer ○○m」という案内を頼りに乗換場所へ向かう。この頃から、途端に周りに日本人がいなくなり、外国人ばかりしか見えなくなってしまった。時折、僕と同じ赤いパスポートを持った人を見かけると、なんとなく安心した気持ちになった。手荷物検査を無事に通過して、パリ行き航空機の搭乗ゲート前で1時間ほど時間を潰した。目的の便は0時に出発する。パリに向かう人々にいよいよ日本人の姿がなくなり、僕は不安とわくわくした感覚の入り乱れた、不思議な気持ちになっていた。

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