最後の挨拶

「南九州支部へ異動とする。」

7月3日、辞令交付也。僕を熊本へ戻す命が下った。

ああ、ああ。終わってしまったのだ。僕は東京で仕事をするために、4年前上京してきた。その仕事が遂に終わってしまった。

この日、送別会が行われた。一次会は係の部屋の中、二次会は職場近くの居酒屋。そのあとは僕と2人の係長の3人で新宿に出た。このお二人は、今年の僕の係長Fさんと、昨年の係長Hさんだ。「お前と飲めるのも最後だから、お前の馴染みの店に行ってやる」と言って、お二人はゴールデン街のすずに来てくれた。

夜の2時。思い出話が進み、気がつくと隣でFさんは泣いていた。男泣きだった。そんな姿を見て僕も涙が止まらなかった。Hさんが僕の肩を抱いて励ましてくれた。ママは静かに話を聞いていた。

僕は仕事ができないこともないが、取り立ててできるというほどの人間ではない。平々凡々な仕事しかできず、それを悔しく、もどかしく思うこともあった。まして僕はこの春、すべての仕事を放棄した、大迷惑な男であった。だがこうして別れを惜しんで泣いてくれる人がいる。僕の人となりを見て涙を流してくれる人がいる。これほど有難いことはない。自分がやってきたことはきっと間違いではなかった、そんな風に思うことができた。僕は幸せ者だ。

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