酒を飲む前の高揚感だけを頼りに書いた駄文

左の鼻にそよぐ、黄色い香りがあった。誰かがオロナミンCを飲んでいる。いやオロナミンではない。香りを追って顔を上げると、左前に座った三十すぎの男が、ウコンの力を流し込んでいる。こんな場所で飲んでも景気づけの一杯にはならぬだろうが、今夜はアルコールをしこたま浴びてやるという決意表明なのか。われわれプロレタリヤ階級にとって、バカ騒ぎして英気を養うのは華の金曜のはずだが、中心街へ向かう土曜19時の産交バスはこれからお楽しみを控えた若者で溢れている。

車両が水道町の交差点に差し掛かると、若者たちは落ち着かない様子でそわそわと浮き足立つ。それは次の停留所で忘れずに降りねばという焦燥の表れか、それとも盛り場に待つ快楽への期待なのか。

「まもなくゥー通町筋ッ、通町筋でございまッす」

鶴屋のロクシタン前にバスが停まる。あれよあれよと若者たちが降りてゆく。通町は夜の物語が幕を開ける舞台だ。バスの扉から現れた、化粧をしてビシッと格好をつけた若者たちは、さながら奈落から迫り上がってきた歌舞伎役者のようである。ウコンニキもまた、花道のごとく真っすぐに伸びた駕町通りに吸い込まれていった。

それにしてもごった返す人の多さよ。今宵の下通りはGLAYのライブでもあるのですか。今もし経済白書を作るなら「もはやコロナ後ではない」と内閣府は書くにちがいない。

焦げた油のにおい、酒の甘い香り、人の熱気。綺麗なものも醜いものもすべて混ざり合った独特のアトモスフィアが盛り場を支配している。秋に似合わぬ蒸し暑さは、こいつがそうしているのか。なんでもえーからビールが飲みたい。サッポロ赤星と串揚げを求めて、僕は玉屋通りへ足を速めた。

1987年12月8日、熊本生まれ。高校時代から「晩白柚」というハンドルネームでブログを書いていました。長らくうつ病性障害を患っています。好きなものはビール、ひとり飲み。

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