晩白柚東京譚

東京での時間が夢だったかのように、まるでなにもなかったかのように、新たに踏み出した生活の日々はあまりにも淡々と過ぎてゆく。僕は本当に東京にいたのだろうか。晩白柚東京譚と名付けられた110記事にも及ぶこの日記は、実は晩白柚…

最後の挨拶

「南九州支部へ異動とする。」 7月3日、辞令交付也。僕を熊本へ戻す命が下った。 ああ、ああ。終わってしまったのだ。僕は東京で仕事をするために、4年前上京してきた。その仕事が遂に終わってしまった。 この日、送別会が行われた…

I MISSED THE SHOCK

新宿歌舞伎町のはずれにあるゴールデン街。あかるい花園3番街に、すずというバーがある。初めて訪れたのは今からちょうど1年前の、じめじめした梅雨の時期だった。市ヶ谷に本社のある同業の知り合いと飲んでいて、お互いに未経験だった…

イシマツとジロウチョウ

「ルドルフとイッパイアッテナ」みたいな題名だが、当の主役の猫たちは追々登場する。 今日は昼一から神保町を訪ねた。 神保町へはちょくちょく通っている。しかし神保町が本の町だというのに、古書店の中へ足を踏み入れることはそうそ…

アール・ヌーヴォーの風雲児

国立新美術館でやっているアルフォンス・ミュシャ展に行ってきた。 この美術展は3月のはじめから開かれていて、その頃から必ず見に行こうと決めていたが、病気のごたごたで実現できずにいた。 僕はアニメオタクではないしアニメをほと…

カレーメモ

カレーが好きだと昔の日記に書いた。 しばらくの間にいくつかの店を開拓した。訪れた店の数を増やすことが食べる目的ではないのはもちろんだが、その数が多くなるにつれて、どこに訪れたかわからなくなってきたので、ここに書き留めるこ…

雪月花の時、最も友を思ふ

銀も金も玉も何せむに勝れる宝子に及かめやも 山上憶良の有名な万葉集の歌である。 銀も金も玉もどんな宝であっても子供には敵わない、という親の思いは、千年以上昔の古い時代から変わらずに在り続けるものだ。 そしていつの時代にあ…

ケニーズの宴

半年ぶりに檸檬とキャンプに行った。 場所は埼玉県飯能市。都内から車で2時間ほどである。前回に続き今回もレンタカーを借りた。朝から小雨がぱらついていたが、飯能に近づいたあたりから本格的に降り始めた。 キャンプサイトの設営は…

BLOWN UP CHILDREN

2週間ほど、訳あって熊本に帰省していた。 僕はこの晩白柚東京譚に暗い話を書くことを避けてきた。4年の執筆のうちあとの2年はそれが顕著で、旅に出たとか美術を鑑賞したとか、文化的活動について記録したのがほとんどだった。それは…

男山、君の袖を濡らす

吐く息が煙草の煙のように白く濃い。凍てつく空気があちこちから顔の肌を刺す。ここは日本の最果て、ここは未だ見ぬ雪国。僕はオホーツクの流氷を見るため、北海道の網走にやってきていた。生まれて初めて踏む北海道の大地。初めての地が…